21世紀の偉大な映画100選 By BBC

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1. 『マルホランド・ドライブ』(2001) デイヴィッド・リンチ

2. 『花様年華』(2007) ウォン・カーワァイ

3. 『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(2007) ポール・トーマス・アンダーソン

4. 『千と千尋の神隠し』(2001) 宮崎駿 

5. 『6才のボクが、大人になるまで』(2014) リチャード・リンク・レイター

6. 『エターナル・サンシャイン』(2004) ミシェル・ゴンドリー

7. 『ツリー・オブ・ライフ』(2011) テレンスマリック

8. 『ヤンヤン 夏の想い出』(2000) エドワード・ヤン

9. 『別離』(2011) アスガル・ファルハーディー

10.『ノーカントリー』(2007) ジョエル・コーエンイーサン・コーエン

11. 『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』(2013) ジョエル・コーエンイーサン・コーエン

12. 『ゾディアック』(2007) デヴィッド・フィンチャー

13. 『トゥモロー・ワールド』(2006) アルフォンソ・キュアロン

14. 『アクト・オブ・キリング』(2012) ジョシュア・オッペンハイマー

15. 『4ヶ月、3週と2日』(2007) クリスチャン・ムンギウ

16. 『ホーリー・モーターズ』(2012) レオス・カラックス

17. 『パンズ・ラビンス』(2006) ギレルモ・デル・トロ

18. 『白いリボン』(2009) ミヒャエル・ハネケ

19. 『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015) ジョージ・ミラー

20. 『脳内ニューヨーク』(2008) チャーリー・カウフマン

21. 『グランド・ブダペスト・ホテル』(2014) ウェス・アンダーソン

22. 『ロスト・イン・トランスレーション』(2003) ソフィア・コッポラ

23, 『隠された記憶』(2005) ミヒャエル・ハネケ

24. 『ザ・マスター』(2012) ポール・トーマス・アンダーソン

25. 『メメント』(2000) クリストファー・ノーラン

26. 『25時』(2002) スパイク・リー

27. 『ソーシャル・ネットワーク』(2010) デヴィッド・フィンチャー

28. 『トーク・トゥー・ハー』(2002) ペドロ・アルモドバル

29. 『ウォーリー』(2008) アンドリュー・スタントン

30. 『オールド・ボーイ』(2003) パク・チャヌク

31. 『マーガレット』(2011) ケネス・ローナガン

32. 『善き人のためのソナタ』(2006) フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク

33. 『ダークナイト』(2008) クリストファー・ノーラン

34. 『サウルの息子』(2015) ネメシュ・ラースロー

35. 『グリーン・デスティニー』(2000) アン・リー

36. 『禁じられた歌声』(2014) アブデラマン・シサコ

37. 『プンミおじさんの森』(2010) アピチャッポン・ウィーラセクタン

38. 『シティ・オブ・ゴッド』(2002) フェルナンド・メイレレス

39. 『ニュー・ワールド』(2005) テレンス・マリック

40. 『ブロークバック・マウンテン』(2005) アン・リー

41. 『インサイド・ヘッド』(2015)  ピート・ドクター、ロニー・デル・カルメン

42. 『愛、アムール』(2012) ミヒャエル・ハネケ

43. 『メランコリア』(2011) ラース・フォン・トリアー

44. 『それでも夜は明ける』(2013) スティーブ。・マックイーン

45. 『アデル、ブルーは熱い色アブデラティフ・ケシシュ

46. 『トスカーナの贋作』(2010) アッバス・キアロスタミ

47. 『リヴァイアサン』(2014) アンドレイ・ズビャギンツェフ

48. 『ブルックリン』(2015) ジョン・クローリー

49. 『さらば、愛の言葉よ』(2014) ジャン=リュック・ゴダール

50. 『黒衣の刺客』(2015) ホウ・シャオシェン

51. 『インセプション』(2010) クリストファー・ノーラン

52. 『トロピカル・マラディ』(2004) アピチャッポン・ウィーラセクタン

53. 『ムーラン・ルージュ』(2001) バズ・ラーマン

54. 『昔々、アナトリアで』(2011) ヌリ・ビルケ・ジェイラン

55. 『イーダ』(2013) パヴェウ・パヴェリコフスキ

56. 『ヴェルクマイスター・ハーモニー』(2000) タル・ベーラ

57. 『ゼロ・ダーク・サーティ』(2012) キャスリン・ビグロー

58. 『母たちの村』(2004) ウスマン・センベーヌ

59. 『ヒストリー・オブ・バイオレンス』(2005) デヴィッド・クローネンバーグ

60. 『世紀の光』(2006)  アピチャッポン・ウィーラセクタン

61. 『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』(2013) ジョナサン・グレイザー

62. 『イングロリアス・バスターズ』(2009) クエンティン・タランティーノ

63. 『ニーチェの馬』(2011) タル・ベーラ

64. 『グレート・ビューティ/追憶のローマ』(2013) パオロ・ソレンティー

65. 『フィッシュ・タンク』(2009) アンドレア・アーノルド

66. 『春夏秋冬そして春』(2003) キム・キドク

67. 『ハート・ロッカー』(2008) キャスリン・ビグロー

68. 『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』(2001) ウェス・アンダーソン

69. 『キャロル』(2015) トッド・ヘインズ

70. 『物語る私たち』(2012) サラ・ポーリー

71. 『熱波』(2012) ミゲル・ゴメス

72. 『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライブ』(2004) ジム・ジャームッシュ

73. 『ビフォア・サンセット』(2004) リチャード・リンクレイター

74. 『スプリング・ブレイカーズ』(2012) ハーモニー・コリン

75. 『インヒアレント・ヴァイスポール・トーマス・アンダーソン

76. 『ドッグヴィル』(2003) ラース・フォン・トリアー

77. 『潜水服は蝶の夢を見る』(2007) ジュリアン・シュナーベル

78. 『ウルフ・オブ・ストリート』(2013) マーティン・スコセッシ

79. 『あの頃ペニー・レインと』(2000) キャメロン・クロウ

80. 『父、帰る』(2003) アンドレイ・ズビャギンツェフ

81. 『SHAME-シェイム-』(2011) スティーブ・マックイーン

82. 『シリアスマン』(2009) ジョエル・コーエンイーサン・コーエン

83. 『A.I.』(2001) スティーブン・スピルバーグ

84. 『her/世界でひとつの彼女』(2013) スパイク・ジョーンズ

85. 『預言者』(2009) ジャック・オーディアール

86. 『エデンより彼方に』(2002) トッド・ヘインズ

87. 『アメリ』(2001) ジャン・ピエール・ジュネ

88. 『スポットライト 世紀のスクープ』(2015) トーマス・マッカーシー

89. 『頭のない女』(2002) ルクレシア・マルテル

90. 『戦場のピアニスト』(2002) ロマン・ポルノスキー

91. 『瞳の奥の秘密』(2009) フアン・ホセ・カンパネラ

92. 『ジェシー・ジェームの暗殺』(2007) アンドリュー・ドミニク

93. 『レミーのおいしいレストラン』(2007) ブラッド・バード

94. 『ぼくのエリ 200歳の少女』(2008) トーマス・アルフレッドソン

95. 『ムーンライズ・キングダム』(2012) ウェス・アンダーソン

96. 『ファイディング・ニモ』(2003) アンドリュー・スタントン

97. 『ホワイト・マテリアル』(2009) クレール・ドニ

98. 『10話』(2002) アッバス・キアロスタミ

99. 『落穂拾い』(2000) アニエス・ヴァルダ

100. 『カルロス』(2010) オリビエ・アサイヤス

100. 『レクイエム・フォー・ドリーム』(2000) ダーレン・アロノフスキー

100. 『ありがとう、トニ・ニルドマン』(2016) マーレン・アデ

 

2020年5月18日時点で20/100の鑑賞率

 

21世紀最高の本100冊 By The Guardian

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自分用のメモ

1.  ヒラリー・マンテル『ウルフ・ホール』

2.  マリリン・ロビンソン『ギレアド』

3. スヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチ『セカンドハンドの時代「赤い国」を生きた人びと』

4. カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』

5. W・G・ゼーバルトアウステルリッツ

6. フィリップ・プルマン『黄金の羅針盤

7. タナハシ・コーツ『世界と僕のあいだに』

8. アリ・スミス『秋』

9. デイヴィッド・ミッチェルクラウド・アトラス

10. チチマンダ・アディーチェ『半分のぼった黄色い太陽』

11. エレナ・フェッランテ『リラとわたし』

12. フィリップ・ロス『プロット・アゲインスト・アメリカ もしもアメリカが…』

13. バーバラ・エーレンライク『プロット・アゲンスト・ダイムド・アメリ下流社会の現実』

14. サラ・ウォーターズ『荊の城』

15. エリザベス・コルバート『6度目の大絶滅』

16. ジョナサン・フランゼン『コレクションズ』

17. コーマック・マッカーシーザ・ロード

18. ナオミ・クラインショック・ドクトリン

19. マーク・ハッドン『夜中に犬に起こった奇妙な事件』

20. ケイト・アトキンソン『Life After Life』

21. ユヴェル・ノア・ハラリ『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』

22. ジョージ・ソーンダーズ『12月の10日』

23. アンドリュー・ソロモン『真昼の悪魔ーうつの解剖学』

24. ジェニファー・イーガン『ならずものがやってくる』

25. サリー・ルーニー『Normal People』

26. トマス・ピケティ『21世紀の資本

27. アリス・マンローイラクサ

28. キャロル・アン・ダフィ『Rapture

29. カール・オーヴェ・クナウスゴール『わが闘争』

30. コルソン・ホワイトヘッド『地下鉄道』

31. マギー・ネルソン『The Argonauts』

32. シェダールタ・ムカジー『がんー400年の歴史ー』

33. アリソン・ベクダル『ファン・ホーム ある家族の悲喜劇』

34. レイチェル・カスク『愛し続けられない人々』

35. エドマンド・ドゥ・ヴァール『琥珀の眼の兎』

36. マーティン・エイミス『Experience』

37. アン・エンライト『The Green Road』

38. アラン・ホリングハースト『ライン・オブ・ビューティ 愛と欲望の境界線』

39. ゼイディー・スミス『ホワイト・ティース』

40. ジョーン・ディディオン『悲しみにある者』

41. イアン・マキューアン『贖罪』

42. マイケル・スミス『マネー・ボール

43. クラウディア・ランキン『Citizen: An American Lyric』

44. レベッカ・ソルニット『暗闇のなかの希望 非暴力からはじまる新しい時代』

45. ジュリアン・バーンズ『人生の階段』

46. シェイマス・ヒーニー人間の鎖

47. マルジャン・サトラピペルセポリス

48. テリー・プラチェット『Night Watch

49. ジャネット・ウィンターソン『Why Be Happy When You Could Be Normal!?』

50.マーガレット・アトウッド『オリクスとクレイク』

51. コルム・トビーン『ブルックリン』

52. アンドレア・レヴィ『Small Island』

53. ピーター・ケアリー『ケリー・ギャングの真実の歴史』

54. メアリー・ビアード『Women & Power: A Manifesto』

55. マイケル・ポーラン『雑食動物のジレンマーある4つの食事の自然史』

56. ロバート・マクファーレン『地下の世界:地質学的時間の旅』

57. マイケル・シェイボン『カヴァリエ&クレイの驚くべき冒険』

58. トニー・ジャネット『ヨーロッパ戦後史』

59. アン・カーソン『The Beauty of the Husband』

60. アリス・オズワルド『Dart

61. ヘレン・ガーナー『グリーフ』

62. エドワード・セント・オービン『パトリック・メルローズ4:マザーズ・ミルク』

63. レベッカ・スクルート『不死細胞ヒーラ ヘンリエッタ・ラックスの永遠なる人生』

64. スティーブン・キング『書くことについて』

65. ギリアン・フリン『ゴーン・ガール

66. カルロ・ロヴェッリ『世の中ががらりと変わって見える物理の本』

67.  パット・バーカー『The Silence of the Girls』

68. ジョン・ル・カレナイロビの蜂

69. ハビエル・マリアス『執着』

70. ゾーイ・ヘラー『あるスキャンダルの覚え書き

71. クリス・ウェア『世界一賢い子供、ジミー・コリガン』

72. ショシャナ・ズボフ『監視資本主義の時代』

73. バーバラ・デミック『密閉国家に生きるー私たちが愛して憎んだ北朝鮮

74. セバスチャン・バリー『Days Without End』

75. オルガ・トカルチュク『Drive Your Plow Over the Bones of the Dead』

76. ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか?』

77. ユリ・エレーラ『Signs Preceding the End of the World』

78. N・K・ジェミシン『第五の季節』

79. リチャード・ウィルキンソン、ケイト・ピケット『平等社会ー経済成長に代わる、次の目標』

80. テッド・チャンあなたの人生の物語

81. ジム・クレイス『Harvest』

82. ニール・ゲイマンコララインとボタンの魔女

83. ヴァレリア・ルイセリー『Tell Me How It Ends』

84. デボラ・レヴィ『The Cost of Living』

85. リチャード・ドーキンス『神は妄想であるー宗教との決別』

86. ヤニス・バルファキス『黒い匣(はこ)密室の権力者たちが狂わせる世界の運命ー元財相バルファキスが語る「ギリシャの春」鎮圧の深層』

87. パトリシア・ロックウッド『レイプばなし』

88. マロリー・ブラックマン『コーラムとセフィーの物語ー引き裂かれた絆』

89. ローナ・セイジ『バッド・ブラッドー出自という受難』

90. ジェニー・エルペンベック『Visitation』

91. M・ジョン・ハリスン『ライト』

92. ヘレン・ダンモア『包囲』

93. ニコラ・バーカー『Darkmans』

94. マルコム・グラッドウェル『急に売れ始めるにはワケがある ネットワーク理論が明らかにする口コミの法則』

95. ボブ・ディランボブ・ディラン自伝』

96. ハニャ・ヤナギハラ『あるささやかな人生』

97. J・K・ローリングハリー・ポッターと炎のゴブレット

98. スティーグ。ラーソン『ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女

99. アラン・マバンク『Broken Glass』

100. ノーラ・エフロン『首のたるみが気になるの』

 

『エル・クラン』

 

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『エル・クラン』(2015) (原題:El Clan)

監督:パブロ・トラペロ

脚本:パブロ・トラペロ

製作:ウーゴ・シグマン ペドロ・アルモドバル

音楽:ビセンテ・デリア

撮影:フリアン・アペステギア

編集:アレハンドロ・カリーリョ・ペノビ パブロ・トラペロ

 

 1980年代初頭に実際にアルゼンチンで実際に起こった事件を基に作られている。

 照明が非常に良い仕事をしていた。家庭での日常生活を描いているシーンや息子の開店パーティーのシーンなどで部屋の明るさや光の当て方、人の顔に当たる光と影が丁度いい塩梅だった。中でも、留置所での親子が対立する場面では、光と暗闇の演出が見事だった。また、音楽もポップな音楽と不安がらせるような音色の音楽が見事にシーンと合っていた。一方でカメラの動きがほぼ前後運動のみで、しかもそれは人物の後ろ姿を追うときに主に使われることに限られていて、カメラの動きに工夫が見られないのが残念だった。そのためショット数の多さで状況を描写していて、私はあまり好きではなかった。ただ、ショットの数を多くすることで誰かの記憶を断片的に覗いているように感じさせる効果があった。これは実際に起きた事件を基に作られているため、このような作りはあながち間違ってはいないと思う。

 ここではあまり事件の動機は問題ではなく、父と息子の従属関係が取り扱われている。割と裕福な家庭が富裕層を狙った犯罪なので共通点はあまりないが、階段が被害者と加害者の暮らす場を線引いているという点で『パラサイト』が思い浮かんだ。

 獄中で父親が司法試験の勉強をして、その後弁護士として働くのは驚いた。誘拐の計画立てや息子への威圧、逮捕後の態度などから只者ではないと感じていたが、現実は想像を超えてくるから面白い。

 

 

『ロリータ』(1962) 

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『ロリータ』(1962)  (原題:Lolita)

監督:スタンリー・キューブリック

脚本:ウラジーミル・ナボコフ

製作:ジェームズ・B・ハリス

音楽:ネルソン・リドル ボブ・ハリス

撮影:オズワルド・モリス

編集:アンソニー・ハーヴェイ

 

 当時の規制などを考慮した上で、出来る限りの性的アピール描写がロリータ(スー・リオン)の足によって行われていたように思う。マニュキュアが塗られている最中の少女の足から始まるこの映画では、ロリータが母親の死後初めてハンバート・ハンバート(ジェームズ・メイソン)と一夜を過ごすことになったときにベットの上でハイヒールを脱ぐ。足フェチと言えばタランティーノの名前がよく挙げられるが、正直タランティーノが演出する足裏のシーンに対して今まで何の思いも起こされたことがない。しかし、この作品で足に執着する意味が少し理解できたように思う。

 原作からカットされた部分もあったが、割と原作に忠実に描かれていたように思う。時代設定やクレア・クィルティ(ピーター・セラーズ)殺害の場面を冒頭に持ってくること、シャーロット・ヘイズ(シェリー・ウィンタース)の人物描写以外に大きな変化が加えられていなかったように思う。クィルティが東洋思想や柔道に造詣が深いことは原作にあったか調べてみる必要がある。

 ピーター・セラーズの挙動不審で謎めているクィルティの演技がよかった。あと、1997年版ではジェレミー・アイアンズがハンバートを演じていたが彼自身の端正さが強く出ていたのに対して、ジェームズ・メイソンが演じるハンバートは身勝手さや年端もいかない女の子に執着する異常さがよく出ていたように思う。あと、1997年版では主にハンバートから見た視点で描かれている。一方で、この作品ではハンバートのボイスオーバーが行われているものの、神の視点から描かれておりハンバートを冷静に客観視出来るようになっている。そのため、ロリータの魅力の描かれ方が異なっている。この作品ではロリータは大人びており、自分の意見をハンバートにはっきりと言う姿が印象的である。

 冒頭のクィルティ殺害に至るまでのやり取りも工夫が見られる。また、殺害シーンでは少女の姿が描かれたキャンバスに銃弾が振りそそぎ、そのキャンバスでエンディングが迎えられるのもすごく粋だなと思った。

 

 

『Love True』

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『Love True』(2016)

監督:アルマ・ハレール

撮影:アルマ・ハレール

製作総指揮:シャイア・ラブーフ

 

 性別や住む場所、人種の異なる三人の若者を追ったドキュメンタリーである。

ストリップクラブで働く25歳のBlake、家族で歌を歌いお金を稼いでいるVictory、腹違いの息子を育てているWilliamがそれぞれ語る。

   Blakeはストリップクラブで働いていることで恋人に相手にされなくなることを度々経験しているが、現在の恋人であるJoelは彼女にとって特別な人だと感じている。Victoryはまだ10代で両親が離婚したことによる環境の変化を未だ受け入れきれていない。そして、Williamは自分の子だと思い愛情を注いでいた息子が自分と血が繫がっていないことを知り、心にわだかまりを抱えている。

 彼らの回想が始まると、画面が一転してその様子が俳優によって演じられる。このことによってスムーズに彼らの話す状況が広がり、退屈させない。また、ドキュメンタリーなので会話が基調となっているが、構図が素晴らしく全く飽きない。本当に同じ構図で話すことがなく、ショットのサイズを上手く加減している。凄い。また、かなりの部分を固定カメラで撮っていて、カメラのブレによって観客の感情を呼び起こそうとしていないのが個人的に良かった。

 Blakeが石から作られたような人形が座っている作り物のバスに子役と顔を寄せ合って座っているのが印象的だった。過ぎ去った出来事が癒えない傷として残っていることを上手く表現していると思った。

 スクールバスでいじめられている姿を子役を使いながら再現しているシーンをBlakeがいたたまれない表情を浮かべて見ている姿や、ストリッパーとして働いていたが5ヶ月前に引退した女性が年をとったBlakeを演じたことで何か変わったと話す姿、そしてVictoryの母親を演じる女優が話に聞いている母親を思い浮かべると何故別れることになったのか納得がいかないと悩む姿もドキュメンタリーに組み込まれている。このよう第三者を介入すること、彼らを演じることでそれまで彼らに同調していた観客に新たな視点を開かせる機能を働かせるとともに、箱庭治療的なセラピーの要素もあるように感じた。

 ストリッパーとして働くことで、それまでとは異なり欲望の対象となることを快く感じるとともに人が離れていってしまう原因ともなっていることに折り合いをつけられず悩むBlakeやストリッパーとしてキャリアを積むことを結婚よりも優先した女性が50歳を前に引退したことを話している姿から彼女たちが自分の職業と周囲の反応、誇り、加齢といった女性を取り囲む問題に答えを出せずにいる様子が映画全体の中でも最も他人事とは思えなかった場面だった。

 終盤にJoelと別れたBlakeが彼のことを考えないように努めていたのに、大量のスープを前にふとJoelに分ければ良いやと思ったことを泣きながら話す姿に思わず私も泣いてしまった。そして、それ以前に彼や彼の家族に気に入られようと思い大学に進学しようと思っていると話していた彼女が大学に足を運んで失恋から前進しようとしている姿を見て、救われた気持ちになった。

 そして、別れてもなお彼のことを一生愛し続けると言うBlakeや父親の暴力によって母親が別れを決意したことを知ってもなお自分は母親のおかげで存在すると言うVictory、息子を人前に見せるのを躊躇うこともあったが彼を連れて回ることに喜びを感じているWilliamを通して愛は呪いでもあり、同時に救いでもあることを改めて感じる作品だった。

 最後には現実を受け入れ、愛して生きることを肯定する、と言うかそうすることが最良なのだと感じる映画だった。

『ダンサー・イン・ザ・ダーク』

ダンサー・イン・ザ・ダーク』(原題:Dancer in the Dark) (2000年)

監督・脚本:ラース・フォン・トリアー

製作総指揮:ピーター・オールベック・イェンセン

撮影:ロビー・ミューラー

編集:フランソワ・ジェディジエ モリーマレーネ・ステンスガート

 

 チェコからの移民であるセルマ(ビョーク)は息子ジーン(ヴラディカ・コスティック)と慎ましやかに暮らしている。彼女は遺伝性の病気が進行しており、ほとんど目が見えない状況の中、友達キャシー(カトリーヌ・ドヌーヴ)と地元の劇団の練習になんとか参加するとともに、工場で働いている。また、その傍ら失明しないための手術を息子に受けさせるためお金を少しずつ貯めている。そんな中、彼女は隣人であり家の大家である警察官ビル(デヴィッド・モース)に悩みを打ち明けられ、自分の目が一年以内に失明してしまうという秘密を明かす。

 

 鬱映画として有名なこの映画は題名をよく聞くものの、未見の作品だった。しかし、Netflixのラインナップに入っていたため、これを機に重い腰を上げて見た。正直な感想として、私はあまり鬱映画だとは思わなかった。そもそも、鬱映画とはどのような定義で話されているのか定かではないのだが、軽く調べたところ後味の悪い映画、陰気な作品のことを指すらしい。この定義から言うと、私はあまり後味の悪い映画とは思わなかった。むしろ、お金が無い状況に置かれたら、自ずと選択肢が狭まってしまうため、ただ彼女はあの結末を選んだのだと割り切って考えることが出来ると思った。困窮した中で登場人物たちは自らが最良と思う選択を行なったまでだと思った。

 

以下ネタバレを含む

 隣人のビルは遺産を使い果した上に浪費家の妻リンダ(カーラ・シモーア)の買い物によって家計が火の車であることをセルマに打ち明ける。セルマは息子ジーンの自転車を買うのも躊躇うような倹約家であることをビルは知っているので、この時彼は親しい隣人としてセルマに話を聞いてもらいたい程に切羽詰まった状況であったことが伺える。しかし、彼女がジーンのために貯金をしていることを知ったことで状況が一転する。ビルはセルマの視力の悪さを利用してセルマがお金を貯めている場所を知る。そしてビルはセルマのお金を盗み、リンダに嘘をつき、修羅場と化す。これは、ビルが自分のプライドを失わない形でどうにか借金によって首が回らない状況を繕いたいという思いから惨事が起こる。また、セルマも弁護士を雇うと自らの刑を軽くすることが出来るが、そうすると息子の手術が行えなくなる。そのため、彼女は死刑を選ぶ。この作品では優しく、思いやりに溢れる人物ばかり登場するが、経済的に困窮すると悲惨な死を遂げてしまうことが運命付けられていると言える。追い詰められると思わぬことをやってのける姿がどこかドストエフスキーの『罪と罰』っぽい。

 セルマが歌って踊ることを何よりも好んでおり、それは劇団に参加したりミュージカル映画を観たりしている姿から伺える。また、彼女が工場で働いている時や、裁判所、刑務所など精神的に追い詰められた時の逃避場としてミュージカルが挿入されている。彼女が映画館で見ているのは白黒のミュージカル映画だが、そこでかかっていると思われる音楽と彼女自身のミュージカルシーンの音楽のジャンルが程遠くて、いくら空想でも現実からは完全に逃避行することは出来ないのだと感じた。また、死刑が延期されるか刑務所で待っている時には、『サウンド・オブ・ミュージック』の "My favorite things"を必死に歌っていても、決してミュージカルシーンに突入しないことから彼女が非常に追い詰められた精神状態にあることが伺える。しかし、息子がいることを明かしたことをきっかけに、なぜか親身に思ってくれる刑務官ブレンダ(シオバン・ファロン)がリズムをとってくれながら死刑台へ進む時はミュージカルシーンに突入しており、その後の彼女の取り乱している様子からこのミュージカルシーンがどこかやっつけぽくも感じる。

 基本的に会話シーンはクロースアップばかりで、セルマの表情をずっと観察せざるを得ないカメラワークである。そして手持ちカメラでブレているため、ドキュメンタリーぽくも感じる。特に死刑台に上がるために用意されている独房においては、ブレまくりのカメラが次々と入ってくる刑務官の姿を慌ただしく撮影し、セルマの顔の超クロースアップを撮るので単に動きを追っているように感じる作りになっている。一方で、ミュージカルパートではショットの数が段違いに多くなるため、彼女の心の躍動感を一身に感じられるようになっている。しかし、ミュージカルには珍しく画面の横の広がりがあまりないため開放感は感じられない稀有な作りになっている。

 セルマのクローズアップを行うことで、必然的に彼女に感情移入することになるが、セルマに対して引きでかつ短い時間しか映らない脇を固める俳優たちがとても良い演技をしているので関係性や性格を伺うことが出来る。

 セルマが息子を想う気持ちは会話から感じられるが、実際にセルマがジーンと会話しているシーンは少なく、二人の関係性が希薄であるように感じた。また、友人のジェフ(ピーター・ストーメア)とは恋仲にはならないというセルマの気持ちが強く、ジーンの父親について全く触れらてないので彼女の恋愛にあまり深追いしないのがこの手の映画としては珍しいと思った。また、刑務官やキャシーなど彼女を取り巻く女性との親交が手厚く描かれていて、ベクテルテストは優にパスする。しかし、その他の登場人物と同じく彼女らの生活は全く描かれていない。あくまでもセルマの物語としてこの作品は描かれている。

 

2018年上半期 My BEST Movie

 今年の大きな転換点とし挙げられるものの一つが、映画館で映画を観るようになったことだ。やはり家の液晶画面で観るのとスクリーンで一時停止することなく観るのは全然違う。なので映画館で観たものは若干評価が甘くなっていることもある。

 だが、大抵の作品がCSでの放送作品ばかりなので、2018年と題しているが正しくは2018年に私が観た作品ベストである。そして上位にある作品ほど感慨深いものである。

『シェイプ・オブウォーター』これは公開日に観て生涯ベストになると確信した映画。本当に大好き。

『草原の実験』この作品も生涯ベスト。映像美に圧倒される。

羊たちの沈黙』名作と呼ばれる作品はそれ相応の価値があることを改めて実感した。

『トラスト・ミー』多分田舎のレンタルビデオ屋ではお目にかかれない作品。ザ・シネマに感謝。

『幸福』ストーリー、映像ともに最高。

『スウィート17モンスター』拗らせティーンムービー。ウディ・ハレルソンが先生役なのがツボ。

木靴の樹』実際に村の人々の生活を垣間見ているよう。だからこそ不条理だ。

ルアーブルの靴磨き』排他的な今の社会で人の温かさを少し信じてみようと思える作品。

『ジャンゴ 繋がれざる者』タランティーノ作品の中では今のところ一番好き。

籠の中の乙女』ランティモス作品の中で一番好き。

『スポットライト 世紀のスクープ』新聞社もので女性が記者としてバリバリ働く姿が良い。

『すてきな片思い』最後のショットが素敵。

『雨のニューオリンズロバート・レッドフォードが若かった頃の作品。廃れた町と線路が良い。

レディバードレディバードケン・ローチ監督作品は好き。

『レイニング・ストーンズ』上と同じく。

『ヘイトフル8 』人々の私利私欲が複雑に絡まるのが面白い。

『ボーダーライン』ヨハン・ヨハンソンの音楽が出口の見えない洞窟にいるようで作品によく合ってた。

ヒズ・ガール・フライデー』皆めちゃくちゃ喋るし、ドタバタしていて面白い。

『クリエイター』マッドサイエンティストものの中で割と好き。

カポーティ』フィリップ・シモーア・ホフマンの演技が素晴らしい。

『シングストリート』曲とファッションが良ければ映画は大体それなりに仕上がるんだよ。

『素晴らしき戦争』面白い。最後のシーンは圧巻。

『抵抗』初ブレッソン作品。撮影が特徴的で癖になる。

『グローリー』映画全体に絶対良いものを作るぞという気迫を感じる。主題歌も素晴らしい。

『奇蹟ががくれた数式』イギリスの大学ものだが割と戦争と植民地支配について向き合っている話。

『奇跡の教室』ロビン・ウィリアムズよりきちんと生徒を方向付けてくれる先生の方が良い。

『わが青春のフロレンス』若者2人の貧しい生活の描写が良い。

太陽に灼かれて』ロケーション撮影がとても良い。

『手錠のままの脱出』黒人差別について甘い感じもするが、手錠で繋がれたまま過ごす設定が面白い。

ニュールンベルグ裁判』裁判映画

アイヒマン・ショー』裁判の途中で視聴者が飽きてしまう点が放送する側を描いているからこそだ。