『ロリータ』(1962) 

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『ロリータ』(1962)  (原題:Lolita)

監督:スタンリー・キューブリック

脚本:ウラジーミル・ナボコフ

製作:ジェームズ・B・ハリス

音楽:ネルソン・リドル ボブ・ハリス

撮影:オズワルド・モリス

編集:アンソニー・ハーヴェイ

 

 当時の規制などを考慮した上で、出来る限りの性的アピール描写がロリータ(スー・リオン)の足によって行われていたように思う。マニュキュアが塗られている最中の少女の足から始まるこの映画では、ロリータが母親の死後初めてハンバート・ハンバート(ジェームズ・メイソン)と一夜を過ごすことになったときにベットの上でハイヒールを脱ぐ。足フェチと言えばタランティーノの名前がよく挙げられるが、正直タランティーノが演出する足裏のシーンに対して今まで何の思いも起こされたことがない。しかし、この作品で足に執着する意味が少し理解できたように思う。

 原作からカットされた部分もあったが、割と原作に忠実に描かれていたように思う。時代設定やクレア・クィルティ(ピーター・セラーズ)殺害の場面を冒頭に持ってくること、シャーロット・ヘイズ(シェリー・ウィンタース)の人物描写以外に大きな変化が加えられていなかったように思う。クィルティが東洋思想や柔道に造詣が深いことは原作にあったか調べてみる必要がある。

 ピーター・セラーズの挙動不審で謎めているクィルティの演技がよかった。あと、1997年版ではジェレミー・アイアンズがハンバートを演じていたが彼自身の端正さが強く出ていたのに対して、ジェームズ・メイソンが演じるハンバートは身勝手さや年端もいかない女の子に執着する異常さがよく出ていたように思う。あと、1997年版では主にハンバートから見た視点で描かれている。一方で、この作品ではハンバートのボイスオーバーが行われているものの、神の視点から描かれておりハンバートを冷静に客観視出来るようになっている。そのため、ロリータの魅力の描かれ方が異なっている。この作品ではロリータは大人びており、自分の意見をハンバートにはっきりと言う姿が印象的である。

 冒頭のクィルティ殺害に至るまでのやり取りも工夫が見られる。また、殺害シーンでは少女の姿が描かれたキャンバスに銃弾が振りそそぎ、そのキャンバスでエンディングが迎えられるのもすごく粋だなと思った。